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ハワイの原風景に触れる時間

ミノリ・エヴァンス
 遅ればせながら、新年初めての「カウアイ日記」です。

 東北での津波災害から間もなく一年。復興に向けていまもたくさんの人の暮らしを揺らし続け、一方で、これからどんな風に変わっていけばいいのか、また変えていくべきなのかを人々に問うスイッチを押したような出来事でした。遠いハワイに住んでいる私がこういう場所で何かを言うのは容易ではないけれど、ただただ、いまも再生への一歩をなかなか踏み出せずにいる人々へ、一日でも早く、それぞれの人の気持ちが、そして暮らしが再生へ向かう日が来ることを祈るばかりです。そして、世界がより平和な時間を刻む一年でありますようにと、新しい年の始めにそんな想いを抱いています。


          ★          ★          ★

プオルと呼ばれるティーの葉で包んだ奉納の品。中にはこの地で採れたイモや、コミュティで作られたポイが入っている
プオルと呼ばれるティーの葉で包んだ奉納の品。中にはこの地で採れたイモや、コミュティで作られたポイが入っている
 現代を生きている私たちだけれど、ハワイの暮らしの中ではふと「タイムトリップ」したような時間が、ポンっと目の前に差し出される機会がある。それをよく感じる場所のひとつが、カウアイの北にある「Waipā(ワイパア)」というコミュニティ。古代のハワイでは「Ahupuaʻa(アフプアア)」という、ハワイ諸島独自の居住空間の単位があり、ここにはまだその概念が息づいている場所だからだと思う。「Ahupuaʻa(アフプアア)」というのは、島をひとつのデコレーション・ケーキだと見立てると、それを一人ずつが食べられるサイズに切り分けたような感じだろうか。頭を山頂として、海までを含めたショート・ケーキ型の区域の中で、ハワイ先住民たちはタロイモを栽培し、魚を採り、自給自足の生活をしていた。「Waipā(ワイパア)」は、カウアイで最も大きな「Ahupuaʻa(アフプアア)」にあたり、ここではいまも、古代からの概念にのっとって、タロイモを栽培し、魚を採り、自分たちが暮らす“コミュニティ”(居住空間)というものをとても大事に思って人々が暮らしている。伝統を守り、同時に現代社会とのバランスも取りつつ、古代ハワイから継承されてきた“自然と密接につながりを持つ”ことを大切にしながら、人々の暮らしが営まれている。そして古代の生活の中で欠かせなかったのが、人々の交通の足、また海の獲物を採る足となったカヌー。このカヌー技術を学ぶこと、カヌーを漕ぎ続けることも「Waipā(ワイパア)」では、いまも人々の日々の暮らしの一部。もちろん、現代ではファイバーグラス製のカヌーが使われているけれど、カヌーを漕ぐこと、海を知ること、星の動きを知ることはアウトリガー・カヌーの漕ぎ手たちには必須である。ちなみに「Waipā(ワイパア)」で働く若者たちの中には、航海用カヌー「ホクレア号」の乗組員も何人か、いる。

入水を待つ、舳先にレイが飾られたアウトリガー・カヌー
入水を待つ、舳先にレイが飾られたアウトリガー・カヌー
 そんな「Waipā(ワイパア)」に、昨日は新しいカヌーの進水式に出かけてきた。新しいカヌーが出来上がること、それで海に漕ぎ出すことは、コミュニティの人々にとって、とても喜ばしいこと、とても誇らしいことである。クプナ(長老)から若者までが揃って、この儀式の立ち会いに集まっていた。「Waipā(ワイパア)」で新しいカヌーの進水にあたって祝福の儀式を執り行うのは、私のクム・フラ(フラの先生)である、プナ・カラマ・ドーソンの役目。現地に着くと、コミュニティの責任者であるステイシーが「来てくれてありがとう!」と気持ち良く、私たちを迎え入れてくれる。ステイシーは、このコミュニティのポー(頭)。古代で言うと、“Aliʻi Nui(アリイ・ヌイ)” … “クィーン(女王)”だとプナが見学に来ている人々に説明をした。端正な顔立ちをショート・カットヘアーで包み、カヌーを漕いで褐色に日焼けした肌、がっちりと頼もしい肩幅、親しみやすい笑顔と人柄。魅力的なクィーンである。 私たちはカヒコの衣装に着替え、砂浜へと向かう。私有地の中を裸足で歩いていくのだけれど、その敷地内を歩いているだけで、なんだかすでに別世界に迷い込んだよう。明らかに私の過ごしている日常とは違う時間の流れがそこにはある。砂浜に着くと、ピカピカのカヌーの傍らに、パフ・ドラム、イプへケなどのフラの道具を並べて準備をする。儀式では、水を入れたコア・ウッドのボウルにその場にいる全員が手をつけて、カヌーの進水を祝福する。


奉納したのは、生命のリレーを唄うカヒコ
奉納したのは、生命のリレーを唄うカヒコ
 … ここではいまも古代ハワイからの学びを追従しようとする人々が暮らしています。ハワイは、大きな大きな太平洋という海に浮かぶ小さな小さなドット(点)。カウアイはその中にあるさらに小さなドット(点)。そして、その粒のように小さな島の中で暮らす私たちの小ささと言ったら、どんなに小さな存在か。でもそんな小さな私たちが守っていけることがある、守っていくべきことがあるのです… 全員に水の入ったボウルが廻っている間、風に乗ってプナの話が人々の耳に響く、気持ちに響いて広がっていく。

 カヌーを海に漕ぎ出す前に、パフ・ドラム(ハワイアン・ドラム)とプナのチャンティングで私を含めた3人のオラパ(フラの踊り手)で、新しい命、これからも続いていく生命のリレーを唄うメレ(曲)を踊る。目の前には、舳先にきれいなレイを飾り、海に漕ぎ出される瞬間を待っているピカピカの真新しいカヌーが堂々と横たわっている。踊り終わるのと同時に、漕ぎ手たちがカヌーを担ぎ上げて、海へと歩く。カヌーが海水に浸かる、次々と漕ぎ手たちが乗り込んでカヌーを海へと漕ぎ出す。カヌーは新しい生命を吹き込まれたかのように、力強く、ぐんぐんと波の立つ中を沖へと向かって行く。このカヌーには昨年亡くなったコミュニティのメンバーの一人の遺志が継がれているという。そんな想いやさまざまな時間を縫っていくように、そしてためらうこともなくカヌーは前へ前へと進んで行った。

波を越えて進むカヌーと、それを見守るクィーン
波を越えて進むカヌーと、それを見守るクィーン
 人と自然が“当たり前に”つながりあっている、こんな時間に身を置くと、妄想的脳を持つ私の思考は、ついついハワイの原風景へと飛んで行く。ともすれば、ファイバーグラス製のグリーンのカヌーさえ、木製のカヌーへと、私の脳の中ではすり替え作業が行われたりもする。ハワイに住んでいても、超日常の中では触れられない時間に身を置くと、もっと深いところでハワイに触れたような気になってしまう。Blessing(祝福)をしに来て、逆にその時間にBlessing(祝福)をされている自分がいるのである。

 新しいカヌーが海へと漕ぎ出していく姿は、見ているだけで気持ちが静かに高揚する。新しく生命を吹き込まれたものが、漕ぎ手の力強いストロークで、波を越えてぐんぐんと進んでいく様子はほんとうに頼もしく恰好いい。見ているだけの私の気持ちまで、ぐんぐんと前に向かって進んで行くようなエネルギーを与えてくれる。そして不思議なのは、濃厚なハワイの時間に接するほどに、日本人である自分をもっと意識する気持ちが湧いてくること。そして、大勢いる小さな小さな粒の中のひとつの粒でもある私(早口言葉みたいですね。笑)…にも出来ることがあるというプナの話。それから、ここではガイジンの私。いろんな思いや考えがぐちゃぐちゃと混ざり合ったせいか、静かに高揚したせいか、その夜、たくさんの色が混ざった虹が、夜空に架かる夢を見た。


※「Ahupuaʻa(アフプアア)」についての正確な知識を知りたい方は、専門書をお読みください。
文中ではあくまでも私のオリジナルな表現になっています。


【参考】
> 特集「アフプア・ア(Ahupuaʻa)」(2006年9月7日掲載)


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